黒い思いは冷気と湿気を含み、地面を縫うように這う。
這い
蹲る うちに、黒い思いは様々な汚物に塗れ、増幅し、膨張する。
それらは、いつしか異臭を放ち、醜く淀んだ瞳だけが恍惚に輝く。
静かに鬼は笑う。
般若のように威圧的な表情をしながら、眼の奥に不気味な笑いを含む。
きっと他の誰もが醜い笑いに気が付いていないのだろう――
蔑むように、侮蔑するように、ぼくを見ていることを。
ぼくがどれだけ鬼からの屈辱を受け、辱められたプライドが音をたて崩れているのかを。
ぼくが惨めで弱くどれ程の価値も無いと鬼のせいで思ったのかを。
全ての悪夢は鬼のせいなのだということを。
そして、その事実に鬼自身も気が付いてはいないのだ。
鬼に蔑まれ、鬼に侮蔑され、ぼくの思念から黒い思いが吹き上がる。
シュウシュウと音をたてるその様は、まるでガス管がもれ始めたばかりのように、あるったけのガスをそこらじゅうにぶちまけようとしているみたいだ。
僕の思念から生まれたひな鳥は、体液でまだ濡れている。その柔らかな黒い羽を広げ始めた――
地を這う黒い思いを啄ばむために。
地を這う黒い思いへ反逆するために。
程よい微風は、ひな鳥の羽を乾燥させてくれる。
鬼が笑っていられるのはいつまでだろう。
鬼が恐怖におののき、眼光の奥に絶望を抱くのはいつの日だろう。
うららかな春の日漏れ日の中で、
醜汚 に満ちた生臭い呼吸が何処からともなく漂ってくる。
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卵から孵った雛鳥は、虫けらに食われなくなる。
虫けらを聳え立つ無敵の鬼と思うのは、卵だから、そう思う。
逞しい体と、自由に動き回る羽根を持ち、雛は鬼と成る。
手で握りつぶせる程度の体だとしても、既に鬼には変わらない。
鬼を精神に宿したとて、敗北でしかなく。
鬼を精神に宿したとて、雛鳥でしかなく。
車輪のように回る悪夢から抜け出ることは難しい。
故に、怒りの矛先には、この世に在る全ての希望を持ってしても、叶うものはない。
プライドから生まれた鬼の精神は、我が恐怖がつくりあげるもの成り。
プライドから生まれた鬼の精神は、我が未熟さの象徴成り。
よって、プライドから生まれた鬼の精神が本当の勝利を得ることは儚き幻想成り。
※追記
果たして雛鳥が見ていた黒い世界は実在していたのだろうか…。
もしかしたら、雛鳥の中だけの事実、いいや、歪んだ悪鬼の捕虜となった末に魅せられた――
精神の敗北を生み出すだけの夢物語だったのかもしれない。
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