けものの自分と人の自分。ふたつも、みっつも、寄せ集まり自分が居る。
どれが本当の自分なの…。
果たして本当の自分など何処に居るのだ。
けものは、本能の赴くままに我が身をひるがえし、無謀な要求を我が肉体に命じてくる。
そして、人の自分は、醜く傲慢な欲を持つけものを毛嫌い、心の闇という檻の中に仕舞い込む。
それでも、けものは欲望のピークになると、あっさりと檻を蹴散らし這い出てくるのだ。
なんのために?
ぼくは、人間である「
ぼく」に、自問自答してみた。
本当は、その欲を叶えたいからに決まっている。
じゃぁ、どうして、ぼくはけものを檻に仕舞い込む必要がある…?
だって、みんなに嫌われるじゃん。
……嫌われる? 嫌われたら何か困るの?
そりゃぁ、困るよ。
どんな風に?
…………。
なにも答えが言えないんだね。それなのに、どうして、檻に入れるなんて言えるの? そんなのおかしいよ。
だって、本能を剥き出しにしたら、犯罪者になってしまうし、まともに生きて行けない。
だったら、どうなりたいから、檻に入れているの? まともって、なに。
まともは、まともだ。普通ってことだよ。
そう、まともってことは良い人になりたい訳じゃないんだね。まともってこと自体、当たらず触らず、適度な距離を保ち、腹の中が黒くても表面上が正しければ「まとも」なんだ。
ってことはさ、普通なんてのも、適当に言っている証拠だ。普通なんて基準は無いんだから。
だったら、きみは、ただ、目立たず生きていきたいって思っているということだよね。
……。
ほら、常に何に対しても適当で、しっかり考えてないから、やっていることと考えていることがバラバラでしょ。
結局、自分がどうしたいか分かっていない。
……。
けものは、闇に封印すればするほどに、這い出たときの反動が強烈だ。
だって、そっちがまんまの自分だから仕方が無い。
故に、そのまんまの自分を恐れる無かれ。
勇者の血が流れているけものをおそれる無かれ。
けものは、けものとして生きるからこそ輝くもの。
人間としての自分が、けものの自分と本気で向き合った末に、人間の知恵と精神により、けものを調教していくもの。
だとしても、けものはけもの成り。
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